連絡船 ── 亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』がいかにひどいか



「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その八

 一連の文章のつづきは、もちろんいまも書き進めているんですが、まだ公開まで時間がかかるため、ここで合間に引用を三つ。

 一つめ。
 若い世代が古典に親しめるような工夫が必要だ。
 今年、夏目漱石や森鴎外の小説を収めた文庫本が、現代の人気漫画家らによるカバーに変わったことで若者の目を引いた。
 海外の古典では、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の新訳が計一〇〇万部を超えるベストセラーになった。
 古典に現代の光を当てることで新たなファンを呼ぶのだろう。
(読売新聞 社説 二〇〇八年十一月二日)

 二つめ。
 ノーボスチ通信は一日、ロシアのメドベージェフ大統領が、ロシア文化普及の貢献者に贈るプーシキン・メダルを東京外国語大学の亀山郁夫学長(五十九)に贈ることを決めたと伝えた。
(朝日新聞 二〇〇八年十一月二日)

 三つめ。
「いいかい、見習い僧君、この地上にはばかなことが、あまりにも必要なんだよ。ばかなことの上にこの世界は成り立っているんだし、ばかなことがなかったら、ひょっとすると、この世界ではまるきり何事も起らなかったかもしれないんだぜ」
(ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』 原卓也訳 新潮文庫)

(二〇〇八年十一月二日)


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