「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一六 5-(21) 最先端=亀山郁夫の仕事がいかにひどいかを知っている者にとって、朝日新聞・近藤康太郎による「【カラマーゾフの兄弟】視界開けた、古典は新しい」(二〇一〇年六月十三日)ほど愚劣で悲惨な記事はありません。記事が誤訳問題にまったく触れないでいたなら、これほど愚劣で悲惨な印象はなかったでしょう。近藤康太郎は、のっけから「「知もて解し得」ないロシアの不可知と、生涯をかけて格闘してきた研究者」などと最先端=亀山郁夫を絶賛していて、誤訳問題をまともに採り上げる気なんかありはしません。最先端=亀山郁夫が「「知もて解し得」ないロシアの不可知と、生涯をかけて格闘してきた研究者」ですって? この冒頭だけで、近藤康太郎が誤訳問題どころか最先端=亀山郁夫についてもまったく理解のないことが明らかです。もちろん、私の送った「ゆうパック」の文書も読んでいない。そうして、いざ誤訳問題に触れると、「指摘の正否はおくとして」だ。よくもこんなことがいえたものだ。
いいか、近藤康太郎!「重厚で難解な印象のロシア文学が、驚くほど明快だった。初めて手にした巨匠の本。これ以後、私は今まで見向きもしなかった本に挑戦しているところだ」と書いた読者に最先端=亀山郁夫がどれほどひどいことをしたのか、お前にわかっているのか? 全然わかっていない! いいか、「本と文化にたずさわるだれにとっても、重い」のは、お前が考えているのとは正反対の意味で「重い」んだよ! さらにいえば、お前は「本と文化にたずさわるだれ」の内に入らない! なぜ「指摘の正否はおくとして」なのか? これを思い出しますね。
なぜこうもそっくりなのか? 朝日新聞記者も東京書籍編集者も会社員だからですよ。いや、さらにいえば、日本の会社員だからです。 もちろん、もうひとつ。
これが日本のマスメディアの実際です。ひどすぎる。 なぜ朝日新聞は「誤訳問題」を自ら検証しようとしないのか? 怠惰だからです。最先端=亀山郁夫のでたらめは、過去に『カラマーゾフの兄弟』をきちんと読んだ者には即座にわかる程度のものです。 これを引用しておきます。
「とにかく、ひとめで、パッと、瞬間的に、出鱈目であることはわかる。そういうたぐいのこと」なんですよ。それほど簡単な検証すら朝日新聞は怠っているわけです。 私も唱和しましょう。 「ウンコはカレーではない」ということを説明するのが、なぜこれほど困難なのか。 それとともに、これを。
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