連絡船 ── 亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』がいかにひどいか



【悲報!】亀山郁夫作の小説『新カラマーゾフの兄弟』



「いいかい、見習い僧君、この地上にはばかなことが、あまりにも必要なんだよ。ばかなことの上にこの世界は成り立っているんだし、ばかなことがなかったら、ひょっとすると、この世界ではまるきり何事も起らなかったかもしれないんだぜ」
(ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳 新潮文庫)

 最先端=亀山郁夫の読解力、文章力について私はこれまでさんざん書いてきました。その最先端=亀山郁夫が小説を書く! ── らしいです。原作『カラマーゾフの兄弟』すらろくに読み取れてもいない人間がいったい何を書くっていうんですかね? あんまり馬鹿馬鹿しくって笑っちゃいますよ。それに、これは書かせた編集者がいるってことです。その編集者には、もちろん私のいう「勇気や信念」がまるっきり欠如しているわけです。

 なぜそんなひとが編集者でいられるのか?
 あるいは、いまやそんなひとこそが編集者なのか?


 ロシア文学者で名古屋外国語大学長の亀山郁夫さん(65)が、初の小説「新カラマーゾフの兄弟」を執筆している。ドストエフスキーの代表作「カラマーゾフの兄弟」に基づいた大作で、第1部が7日発売の「文藝」(河出書房新社)に掲載される。
 「カラマーゾフの兄弟」は父親殺しがテーマだ。ドストエフスキーは「父親殺害事件を描く第1の小説」と「事件から13年後の末弟アリョーシャを描く第2の小説」を構想したが、書いたのは「第1の小説」だけで、事件の真相も十分に説き明かさなかった。
 亀山さんの「新カラマーゾフ」は、1995年の日本を舞台とする「黒木家の兄弟」と、ドストエフスキーを意識してきた自身の半生を投影した「Kの手記」の、二つの小説を交互につなぐ形で進む。
 「黒木家の兄弟」では、事件の真相と兄弟のその後を描く。「第2の小説」の内容を推察する専門家らの見解をふまえ構想。舞台は、亀山さんが育った栃木県や東京、山中湖、現在の仕事場がある名古屋だ。経済が落ち込み、阪神大震災やオウム事件が起きた95年当時の日本の世相を、帝政末期のロシアに重ねた。
 亀山さんはロシア文学研究の第一人者だ。スターリン時代の芸術家を研究した「磔(はりつけ)のロシア」で大佛次郎賞、新訳「カラマーゾフの兄弟」でプーシキン賞を受賞。だが、高校時代からの愛読書「カラマーゾフの兄弟」は、大学時代に「ある痛烈な事件」を経験以来、50代まで再読しなかった。
 亀山さんは、「今回の作品は、ドストエフスキーと向き合うことを避けてきた半生を振り返る自伝的小説でもある」と語る。「謎解きを期待する人は『黒木家』だけの拾い読みで結構ですが、私としては、『手記』を書かないとこの小説を書く意味がなかった」
 第1部は400字原稿用紙600枚分。原作と同じ全4部構成で、来春に完結する予定だ。(佐藤雄二)
朝日新聞二〇一四年七月五日

(二〇一四年七月六日)

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